生存者バイアスを考慮したトレーニング

トレーニング情報が今のように簡単に手に入らない時代

主な情報源は、文献や参考書、またはジムで知り合った人からなどでした。

そして今は、SNSの発展にともない誰でも簡単に膨大な量の

フィットネス関連の情報を手に入れることができます。

 

ここで質問です。

『ある目標を達成するため』に必要な情報を探し出す時

その情報を『選ぶ・参考にする』基準は何ですか?

 

『一流の選手がやっているから』

『有名な配信者が言っていたから』

『あの人はしていないから』

 

『選ぶ・参考にする』基準が

・専門家の意見

・トレーナーや選手などの実感

・その分野の権威の長年の経験

などになっている場合は生存者バイアスの観点から注意が必要です。

生存者バイアスって何?

生存者バイアス(せいぞんしゃバイアス、英語: survivorship biassurvival bias)または生存バイアス(せいぞんバイアス)とは、何らかの選択過程を通過した人・物・事のみを基準として判断を行い、通過に失敗した人・物・事が見えなくなることである。

引用元:wikipedia

この生存者バイアスにまつわる有名な話があります。

第2次世界大戦中、戦闘から帰還してきた飛行機の被弾状況を調べて

被弾箇所が多い部分はよく撃たれるということで

墜落しないように、そこを補強しようと考えました。

それをみた、ある統計学者が言いました。

『そのデータは”帰ってきた飛行機”のものだけで、”墜落してしまった飛行機”のデータがない』と。

そして更にその統計学者は言いました。

『帰ってきた飛行機の、損傷を受けていない箇所を補強したほうがいい』と。

つまり、帰ってきた飛行機の被弾した箇所というのは『被弾しても大丈夫』

ということを裏付けており、逆に被弾していない部分は

『被弾した場合、墜落する可能性がある』ことを意味するのです。

生存者バイアスとエビデンスレベル

生存者バイアスに注意する時に、一つの判断材料にしていただきたいのが

『エビデンスレベル』です。

ここでいうエビデンスレベルとは医学的根拠の信頼性の度合いです。

 

そして、最も低いエビデンスレベルに分類されるのが冒頭でもお話した

●専門家の「意見」

●トレーナーや選手などの「実感」

●その分野の権威の長年の「経験」 です。

しかし、エビデンスレベルが最も低いと言われていても

『その分野のトップレベルの人たちは皆している!(皆言っている)』

と、参考する方は跡を絶ちません。

生存者バイアスとトレーニング

トレーニングに限らず仕事や勉強でも、その分野における『成功者』の意見や行っていることは

とても価値のある情報に見えますし真似する方は多いでしょう。

なぜなら、その成功者はその方法で成功したのだから、私もそれをすればそうなれると考えるのが自然だからです。

 

これこそが『生存者バイアス』であり、落とし穴です。

 

現実として受け入れなければならないのは

例えばスポーツの世界でトップレベルにいくには

(すべてのスポーツが当てはまるわけではありませんが)

遺伝的要素によって、かなりの確率で決まるとういことです。

これは特に短距離走や立ち幅跳び、砲丸投げやウェイトリフティングなど

パワーを必要とするスポーツにおいて、かなり重要な因子です。

 

これを踏まえたうえで、今一度質問します。

・何百、何千、何万人の中でも『選りすぐりのトップレベルの選手』が行っている、言っている内容を参考にする

・何百、何千、何万人の『一般の方』を対象に行った数々の研究同士を比較したバイアス(偏り)の少ない情報を参考にする

どちらがより有益な情報でしょうか?

 

エビデンスレベルが低い=真似をしてはいけないというわけではない

これを前提としたうえで、まず優先して選択すべきことは

『選りすぐりのトップレベルの選手(墜落しなかった飛行機)』の情報ではなく

『大勢の一般の方を対象に行った研究から出た結果(墜落してしまった飛行機)』だということを

ご理解いただけたでしょうか。

しかし、昨今この遺伝的要素を超えることのできる『あるモノ』が一般に流行し

スポーツの場で問題になったり、健康被害が相次ぐなどの問題が起きているのです。

[問題提議]生存者バイアスとアナボリックステロイド

『アナボリックステロイド』をご存知でしょうか?

簡単にいうと『筋肉増強剤』です。

 

以前『知るべき事実『筋肉量の限界値』』という記事を投稿しましたが

人間が、骨格に対してつけられる筋肉量は限界があります。

そして、アナボリックステロイドを使用すれば、その”限界”を超えることが可能です。

しかし、本来アナボリックステロイドは医療の現場で使用されるものであり

健康体の方が使用すべきものではありません。

間違った使用で重篤な副作用が出てたり、最悪の場合死亡する可能性もあります。

(ある研究では使用していない群と比べて使用している群の死亡率は3倍も高かったそうです)

 

また、日本では医師から処方されなければ使用できませんが

個人輸入であれば処方箋なしで購入することが日本では可能であるため

昨今のフィットネスブームも重なり、アナボリックステロイドを使用する方が増え

健康被害が相次いだことで厚生労働省の調査が始まったようです。

ユーザーの真似は基本的に『NO』

アナボリックステロイドを使用している方をユーザー

アナボリックステロイドを使用していない方をナチュラル

と分けて言うことがありますが

ユーザーの行っているトレーニングをナチュラルが真似ることは

基本的にオススメできません。

ユーザーはナチュラルに比べてとてつもなく筋肥大しやすい状態にあります。

またユーザーはトレーニング後の回復力も高いです。

それだけスタートラインが違うので、ユーザーのしているトレーニングや

食事管理を参考にするのは基本的にはオススメできません。

 

当ジムは『アンチ・ドーピング』を掲げています。

※スポーツにおいて、アナボリックステロイドの使用はドーピングであり違反行為です。

おわりに

トレーニングや食のあり方が多様化してきた今

ある意味、無法地帯ともいえるこの分野において

生存者バイアスを常に意識し、情報や方法を多面的に「見極める力」と

それを取捨選択ができる力が、我々専門家だけではなく

みなさまにも必要な時代に差し掛かっているかもしれません。

 

【エビデンス検索に役立つサイト】

●Pub Med→ https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/

●J-STAGE→ https://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja

●Cinii→ https://ci.nii.ac.jp/

投稿者プロフィール

Yutaro Masuda
Yutaro Masuda理学療法士
理学療法士として幾多の臨床経験を経て2020年に『RE-ALL FITNESS』を設立。
もともとは体重100kgオーバーの大食漢。腕立ても腹筋も出来ない男がアメリカンフットボールに出会ったことをきっかけにトレーニングを始める。やめてからはパワーリフティングに転向し、トレーニングに明け暮れる2児の父親。