スポーツとセルフハンディキャッピング
今日は大事な試合です。
A君「ねぇ聞いて!昨日、夜遅くまで映画を見ちゃって寝不足なんだ!」
B君「そうなんだ~!俺は何となく本調子じゃないだよね~!」 C君「俺は昨日は家族に頼まれていた用事を済ませて、塾の宿題もやって、その後は彼女とデートに行って、帰ったら部屋の掃除と犬の散歩にも行って超忙しかった~」 D君「それは大変だったね。私は先輩にフォームを見てもらったんだけど話していることがわからなくて結局改善出来なかったよ。だから今日の試合は上手く出来ないかも・・・」 |
4人共、試合を前にしてコンディションが良くないことを話しています。
試合が始まる前から、このような調子で大丈夫でしょうか・・・。
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《目次》
セルフ・ハンディキャッピングとは
大事な試合なのにも関わらず
- 夜遅くまで映画を見て寝不足になったA君
- 試合の前から「何となく本調子じゃない」と話すB君
- 試合の前日に沢山の用事を抱えたC君
- 先輩の指導がわからなかったことで今日の試合は上手くいかないと話すD君
これらの言動はセルフ・ハンディキャッピング(以下「SH」という)と言います。
上記を例にすると、試合に負けた時の言い訳を自ら作ったり(A君・C君)、負けた時の言い訳(B君・D君)をすることです。
【関連用語】自己奉仕バイアスとは?
例)自分の成功は自分自身のおかげ/自分の失敗は環境や他人のせいと思う |
セルフ・ハンディキャッピングの種類
SHには2種類あります。
①獲得的セルフ・ハンディキャッピング
獲得的SHは自らハンディキャップを作ることです。
今回の場合、A君のように明日試合なのにも関わらず寝不足になるまで映画を見てしまうことや、C君のように試合の前日に対処出来ないほどの用事を抱え込む状況を自ら作ったことです。
②主張的セルフ・ハンディキャッピング
主張的SHは自らハンディキャップがあることを主張することです。
今回の場合、B君のように「何となく本調子じゃない」と主張したことや、C君のように「先輩の指導がわからないから今日の試合は上手くいかない」と試合に負けた時の原因は他にあると主張することです。
100%の力で挑んで失敗した時の心に受けるダメージよりも、自分が納得の行く都合のいい理由(言い訳)を用意しておけば「◯◯だったら勝てたかもしれない」と思い込む余地を残すことができます。
逆に、試合に勝てば「◯◯だったのに勝てた」と喜びもひとしおです。
良い意味でも悪い意味でもSHをすることでプライドは守られるのです。
セルフ・ハンディキャッピングのメリット
Q.SHはいけないのか?
A.SHは心の健康を保つために必要な行為(自己防衛)です。
まず前提として「言い訳は駄目」という考えは危険です。
自分の気持ちのバランスを保つためにも、時としてSHは必要です。
対処しきれない程の問題に直面した時に、SHがないと「責任は全て自分にある」「これが出来ない私は駄目な人間だ」などと問題を抱え込み、自尊心を失ってしまいます。
最悪の場合、うつ病などの心の病気に発展するリスクもあります。
しかし、習慣化したSHは要注意です。
セルフ・ハンディキャッピングのデメリット
SHは自身のプライドを守ることへ注意が向くため本来の自分の能力を発揮しきれず、目標達成の成功確率を下げると言われています。
また、SHが習慣化すると何か困難に直面した時に、出来ない理由から探すようになり挑戦する気持ちや、向上心がなくなります。
また、SHを習慣化すると他者への信頼を失ったり悪印象を受けるリスクも出てきます。
では、どういった方がSHを習慣化しやすいのか?
それを紐解くために「目標と動機づけ」について話を掘り下げてみましょう。
セルフ・ハンディキャッピングと目標
達成目標理論(詳細は割愛します)では、目標の種類を熟達目標と遂行目標の2つに分類します。
①熟達目標とは?
「成長したい」「能力を向上したい」といったことを目的とするのが熟達目標です。
②遂行目標とは?
遂行目標は2つに分類されます。
Ⅰ.遂行接近目標
→肯定的に評価さることを目的とする(例:誰かに良く評価されたい)。
→肯定的評価を望む遂行接近目標の人は問題解決に向けて前向きな傾向。
Ⅱ.遂行回避目標
→否定的に評価されないことを目的とする(例:自分の能力を低く見られたくない)。
→否定的評価を受けたくない遂行回避目標の人は問題を先延ばしにしたり、やらないといった傾向に陥りやすい。
熟達目標・遂行目標の比較
物事が順調に進んでいるときでは、熟達目標も遂行目標も成果に大きな差はないと言われています。
しかし、物事が順調に進んでいないときでは結果が変わります。
ある調査では熟達目標優位の人はSHを使用しない傾向にあり、遂行目標優位の人はSHを使用しやすい傾向にあるとのこと。
また、物事が順調に進まなくなった時でもモチベーションを維持しやすいのは熟達目標思考であり、低下傾向にあるのは遂行目標思考だったとのこと。
余談ですが、選手が「私の指導者は能力の高さのみで選手を評価していると思う」と感じている場合は、その選手はSHを行いやすい傾向にあるとのことです。
目標と動機づけ
現在バイアスの記事でも外的動機づけ(例:◯◯出来たらご褒美、出来なかったら罰ゲームなど)は継続率を高めるうえで、効果を発揮しづらいと説明しました。逆に、内的動機づけ(例:楽しい、成長したい等、外的動機づけを必要としない欲求)は継続率を高めるうえで効果的だと話しました。
熟達目標と遂行目標にもこれが当てはまり、熟達目標の人は内的動機づけ(成長したい・もっと知りたい等)によってモチベーションを維持する傾向にあり、遂行目標の人は外的動機づけ(褒められたい・叱られたくない等)によってモチベーションを維持する傾向にあります。
さいごに
結論として、SHを無くす魔法の方法はありません。
実際、スポーツの場面において「勝てる相手ではない」「負けたら恥ずかしい」「勝負するのが怖い」などといった気持ちは口に出さずとも考えてしまいます。
そういった気持ちをコントロールするためにも、小さな目標を少しずつ達成していきながら成功体験を繰り返し自信をつけていくことが大事です。
そのためにも難しい課題(長期的な課題)からではなく、簡単な課題(短期的な課題)からコツコツとこなしていきましょう。
「練習で出来ないことは本番でも出来ない」
スポーツをやっている人は一度は言われたことはないでしょうか。
しかし中には「練習で一度も出来なかったことが本番で出来た」なんてこともあるわけです。
そういった要因の一つにはサイキングアップが関係してくるかもしれません。
これは現在バイアスや今回のSHに深く関係します。
投稿者プロフィール
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理学療法士として幾多の臨床経験を経て2020年に『RE-ALL FITNESS』を設立。
もともとは体重100kgオーバーの大食漢。腕立ても腹筋も出来ない男がアメリカンフットボールに出会ったことをきっかけにトレーニングを始める。やめてからはパワーリフティングに転向し、トレーニングに明け暮れる2児の父親。
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