[後編②]肩痛と前鋸筋~ベンチプレス好き必見~

肩が痛い時にやるべきトレーニングとストレッチ

  • 肩の痛みの発生要因として関連性の高い部位
  • その部位をターゲットとしたトレーニング及びストレッチ方法

主にこの2項目について解説・紹介させていただきました。

 

本稿は、その中で出てくる『前鋸筋』について、もう少し掘り下げて解説し、日常生活やトレーニング(特にベンチプレス)で肩痛に悩まれている方への予防・改善法を加えた『肩が痛い時にやるべきトレーニングとストレッチ』のアップデート内容になっています。

 

長編のため前編・後編の2部構成の予定でしたが、情報量が多いので後編を①・②に分けてお伝えします!

今回はその後編②です。

 

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※サクサクと読める内容ではありませんが『なぜ肩痛が起きるのか』『なぜこのフォームでトレーニングをするのか』など、根本を理解することが改善への近道と筆者は考えます。また、トレーニングにおいても本質を理解している人と、していないで形だけ真似している人では効果はまったく変わります。是非、2度3度ご覧いただけますと幸いです。

前回のおさらい

前鋸筋の機能

1)肩甲骨の後傾外旋に働く

2)肩甲骨(下角と内側縁)が肋骨から離れないように押し付けておく。

前鋸筋の機能が低下すると起きる異常運動

前鋸筋に負荷がかかる動きで(特に遠心性収縮時)

  • 肩甲骨の内側縁が後方に浮き出る(肩甲骨が内旋している)。
  • 肩甲骨の下角が後方に浮き出てくる(肩甲骨が前傾している)。

肩を痛めやすい状態

トレーニングにおいて、前鋸筋に負荷がかかる動きは「押す種目」です。

押す種目の中で特に人気のある「ベンチプレス」では、肩痛を訴えるケースはとても多いです。

では前鋸筋の機能が低下している時にベンチプレスを行うと、肩甲骨はどのような動きを見せて肩痛をおこすのでしょうか。

後編②はここからスタートです。

ベンチプレスと前鋸筋

前鋸筋の機能を、もう一度確認しましょう。

【前鋸筋の機能】

1)肩甲骨の後傾と外旋に働く

2)肩甲骨(下角と内側縁)が肋骨から離れないように押し付けておく。

上記の機能が低下している状態でベンチプレスを行った場合、肩甲骨の動きにどのような影響を与えるのでしょうか。

ベンチプレスの動作を3つの方向から見てみましょう。

これから出てくる画像の「」は肩痛が起きにくいフォームです。「×」は肩痛が起きやすいフォームで、肩痛を有する方のベンチプレスでよく見られるエラー動作でもあります。

ベンチプレスを真横から見る

◯:動作中、肩甲骨の後傾が維持できている。

×:動作中、肩甲骨の後傾が維持できずに前傾している(肩甲骨の下角が後方に浮き出る)。更に肩甲骨が前傾方向に傾くと、肩は頭側に上がり、肩がすくんだ状態になる。

ベンチプレスを頭頂部から見る

◯:動作中、肩甲骨の外旋が維持できている。

×:動作中、肩甲骨の外旋が維持できずに内旋している(実際には背中にベンチ台があるので上図のような内旋の動きというよりは、外方向へ開いていくイメージ)。更に、肩甲骨が内旋方向に傾いたことで肩関節は”巻き肩”のようになり、それに連なって肘関節は天井方向へ上がりバーベルが傾きます。

ベンチプレスを正面から見る

◯:動作中、肩甲骨の後傾・外旋を維持できている。

×:肩甲骨の後傾が維持できず前傾方向に傾き、肩が頭側へ上がります(肩がすくむ)。肩甲骨の外旋が維持できず内旋方向(外側)に広がります。それにより肩や肘が頭側方向へ上がりバーベルが斜めに傾きます。

まとめ

前鋸筋の機能が低下した状態でベンチプレスを行うと「×」の図のように、バーベルの重さに対して肩甲骨の後傾・外旋が維持できずに前傾・内旋してしまいます。

この状態が肩峰下スペースを狭くして、肩痛を起こしやすくします。

ベンチプレスで肩を傷めない秘訣は前鋸筋をしっかりと機能させること。

つまり肩甲骨の「後傾」と「外旋」がベンチプレス中に維持できていることが肩を傷めない秘訣です。

ベンチプレスのフォームを調べると、肩甲骨を「下制する(下げる)」または「寄せる」と聞いたことがありませんか?

  • “肩甲骨を下制する(下げる)”動作は、後傾を意味します。
  • “肩甲骨を寄せる”動作は正確には間違ったフォームです。”肩甲骨を寄せる”のではなく”肩甲骨を外旋する”ことです。

さいごに

前鋸筋のみの原因でこれらの現象や肩痛が起きていることは考えづらく、僧帽筋(下部)の筋力低下、小胸筋や関節包(後方)の柔軟性低下も同時に起きていることを疑います。

今回は前鋸筋にのみターゲットを絞って話を進めてきましたが、ベンチプレスに限らず、肩痛で悩まれている方は前鋸筋・僧帽筋(下部)の筋力強化、小胸筋・関節包(後方)の柔軟性向上に力を入れてください。

肩痛が慢性的に続いている場合は、特に関節包(後方)の柔軟性向上に時間を割くことをオススメします。

その柔軟性向上をストレッチで獲得していくことも一つの方法ですが、筆者がオススメする方法は筋力トレーニングで柔軟性を出していく方法です。

これについてもいずれお話できればと思います。

それでは、最後にオススメの前鋸筋トレーニング方法を紹介して終わりたいと思います。

前鋸筋のトレーニング方法

前鋸筋のトレーニングは、自重やゴムバンドを使用した方法が多いですが、そのデメリットとしては負荷を段階的に増やせないことです。

前鋸筋も当然筋肉ですので同じ刺激を与えていても発達しません。段階的に負荷を上げていく必要があります。

そこで今回は筆者がオススメするバーベルを使った前鋸筋トレーニングを紹介します。

まずは動画をご覧ください。

フォームで注意するところは下図の①②③のみです。

[横][後][前]の3方向から注意点をチェックしてみましょう。

併せて、間違ったフォームについても解説していきます。

[横]から見たフォームと注意点

①:肩甲骨の後傾を維持する

②:手首の位置より後ろに肘を下げない/「もう伸ばせない」と思うところまで腕を完全に伸ばしきる

エラー(1):肘を後ろに下げすぎている/肩甲骨が前傾している

エラー(2):腕が完全に伸び切っていない


③:腹筋とお尻に力をいれて腰が反らないようにする

エラー(3):身体を捻らない

[後]から見たフォームと注意点

①肩甲骨が外側に広がる目一杯まで腕を伸ばす

②腕を完全に伸ばしきる/脇が空きすぎないようにする(脇を締めて、肩の真下に肘がくるようにする)

エラー(2):腕が完全に伸び切っていない/首が傾いている

エラー(4):脇が空きすぎている


③:腹筋とお尻に力をいれて腰が反らないようにする

エラー(3):身体を捻らない

[前]から見たフォームと注意点

②腕を完全に伸ばしきる/脇が空きすぎないようにする(脇を締めて、肩の真下に肘がくるようにする)

エラー(2):腕が完全に伸び切っていない/首が傾いている

エラー(4):脇が空きすぎている


③:腹筋とお尻に力をいれて腰が反らないようにする

エラー(3):身体を捻らない

注意

  • 低重量(フォームが崩れない重量)/高回数(10~12回)で行ってください。
  • 片膝立ちで行うのが難しい場合は、立って行ってください。立って行っても重い場合(フォームが崩れる)は、バーベルの先端ではなく根本側を握ってください。
  • 前鋸筋の使いすぎ(オーバーユース)による機能低下の場合は回復させることを優先しましょう。

投稿者プロフィール

Yutaro Masuda
Yutaro Masuda理学療法士
理学療法士として幾多の臨床経験を経て2020年に『RE-ALL FITNESS』を設立。
もともとは体重100kgオーバーの大食漢。腕立ても腹筋も出来ない男がアメリカンフットボールに出会ったことをきっかけにトレーニングを始める。やめてからはパワーリフティングに転向し、トレーニングに明け暮れる2児の父親。