『斜め懸垂(インバーテッド・ロウ)』の効果と方法

背中の種目の代表格といえば懸垂(チンニング)

これはとても素晴らしい種目です。

では懸垂だけしていればいいのかといえば、実際はそれだけでは不十分です。

それはなぜなのでしょうか?

その理由に加えて、背中の種目に是非加えていただきたい種目

斜め懸垂(インバーテッド・ロウ)

その効果と方法についてお話をしていきます。

背中の筋肉と”引く”動作の関係

背中(後側)の筋肉は胸(前側)の筋肉と比較して、多様な筋肉たちで構成されています。

胸は『押す』トレーニング、背中は『引く』トレーニングをして筋肉を鍛えていくわけですが、先述したとおり背中は多様な筋肉たちで構成されているため一筋縄ではいきません。

そこでまずわかりやすいように背中の筋肉を大きく3つに色分け()してみましょう。

そして、その3つに色分けされた部位が主に働く運動は

①前から引いた時

②上から引いた時

③下から引いた時

と、”ざっくり”と覚えてください。

 

そして、背中をしっかりと満遍なく鍛えようとした場合、この①~③の動きを取り入れることが重要です。

背中は多様な筋肉で構成されているため同じトレーニングでも、握り方や、引く時の肘の向きなどで働く筋肉がガラッと変わります。そのため完全にグループ分けすることはできません。今回のテーマでは、それらの条件を含めると話がややこしくなるので便宜上、簡略化することをご了承ください。

 

①前から引いた時

【前から引く主な種目】

斜め懸垂(インバーテッド・ロウ)←今回のテーマです。解説は後述します。

●シール・ロウ

●シーテッド・ローイング

【上記種目で主に働く筋肉】

●僧帽筋(中部線維)

●大菱形筋

●小菱形筋

●三角筋(後部線維)

②上から引いた時

【上から引く主な種目】

●懸垂(チンニング)

●ラット・プルダウン

【上記種目で主に働く筋肉】

●広背筋

●大円筋

③下から引いた時

【下から引く主な種目】

●バック・エクステンション

●デッドリフト

○シュラッグ

【上記種目で主に働く筋肉】

●脊柱起立筋群

○僧帽筋(上部線維)

 

ベントオーバー・ローイング、ワンハンド・ローイング、Tバー・ローイング

これらの種目も大変有効な背中のトレーニングです。ですが、これら種目は共通して『ベントオーバー姿勢(上半身を前傾させた姿勢)』で行う種目です(下図参照)。この姿勢は、複合的な引く動きになるので今回のテーマでは便宜上、除外することをご了承ください。

斜め懸垂(インバーテッド・ロウ)の効果

『背中の筋肉と”引く”動作の関係』をご理解いただいたところで、いよいよ今回のテーマ『斜め懸垂(インバーテッド・ロウ)』についてお話をしていきます。

上図が斜め懸垂(インバーテッド・ロウ)の動きです。

ここで一度、復習をしておきましょう。

この動きは『前から引く』『上から引く』『下から引く』どの動きに分類されるでしょうか?

 

正解は身体の正面から腕を引いていく動きになるので『前から引く』動きに分類されます。

【斜め懸垂(インバーテッド・ロウ)で主に働く筋肉】

●僧帽筋(中部線維)

●大菱形筋

●小菱形筋

●三角筋(後部線維)

上記の筋肉の発達は、以下のような症状を予防・改善する効果が期待されます。

【斜め懸垂(インバーテッド・ロウ)の効果】

●肩こり

●肩関節周囲炎(五十肩)

●野球肩

●インピンジメント症候群

●不良姿勢(猫背)

●トレーニング中の肩の痛み など

斜め懸垂(インバーテッド・ロウ)の方法

【 方 法 】

※見えやすいように正面を向いて行っていますが、この向きで行うとバーベルがラックから外れる危険性があるので、このトレーニングを行う際は必ず”バーベルを支柱側に押し付ける方向”で行ってください。またはスミスマシンで行うことをオススメします。

1.”みぞおち”の下あたりにバーベルが位置するようにセットしてください。

2.手幅:”肩幅から拳1~2個分”外を握ってください。

手幅を広くすると、僧帽筋(中部線維)・菱形筋・三角筋(後部線維)などが主に働き、手幅を狭くすると広背筋や上腕筋などが主に働きます。今回の手幅はその中間に位置するので、より多くの背中の筋肉が働きます。目的により使い分けてください。

 

3.胸にバーベルが当てられる範囲で足の位置を調整します。

4.頭の先から足首まで身体を曲げずに”一直線”にします。

5.その状態を維持したまま、バーベルが胸につくまで身体を持ち上げます。

[ワンポイント・アドバイス]

このトレーニングで最も重要なポイントは”完全に引ききる”ことです。

“引ききらない”このトレーニングは、十分に対象筋が働かないため”旨味”がありません。その”引ききる”ことを意識するために、胸にバーベルがついた所で”0.1秒”止める意識をもってください。それにより、このトレーニングでよくあるエラー”反動動作(チーティング)”を軽減・予防することができます。

【よくあるエラー】

[エラー1]

引いた時に身体が”くの字”なる。

→:アゴは引かない/背中を丸めない

アゴを引き、背中を丸めた状態で、この運動を行うと肩甲骨の動きが十分におきません。

●アゴは上げるわけでもなく、引くわけでもなく、中間位

●背中は反るわけでもなく、丸めるわけでもなく、中間位

 

[エラー2]

引いた時に背中を反りすぎている。

→アゴを上げない/背中を反らない/下半身の力を使いすぎない/反動をつけて上がらない

 

[肘の位置の注意点]

 

肩関節障害や、不良姿勢、トレーニング初心者の方などは、斜め懸垂(インバーテッド・ロウ)で主に働く筋肉(僧帽筋(中部線維)/菱形筋/三角筋(後部線維)など)の筋力低下が起きているケースが多いです。

そういった方たちがこのトレーニングを行なうと、その弱った筋肉を補うように他の筋肉が働こうとします。これを代償動作と言います。

その代償が起きている時によく見られる動きが先述したエラー1,2や、この肘の動きです。

この肘の動きが起きている時の多くは、背中を丸めていたり、脇をとじている場合が殆どです。この動きが起きている時は他の筋肉(広背筋や大胸筋、上腕筋など)が代償的に働いているため、本来働くべき対象筋たちの活動が不十分です。

代償動作が強く出ている時は斜め懸垂を行なえる筋力レベルではないので、“斜め”の角度を浅くして行なうか、以下の”バリエーション①”を試してみましょう

バリエーション①

方法や注意点は上記と基本的には変わりませんが、この方法の場合、足の力を補助的に使うことができるので、筋力に自信がない方はこの運動から始めてください。

バリエーション②

この方法は斜め懸垂(インバーテッド・ロウ)の中で、最も難易度が高い方法です。方法や注意点は上記と同様です。

 

※動作の難易度は【バリエーション①→斜め懸垂→バリエーション②】の順番で難しくなってきます。

動画解説はこちら

平均回数

さいごに、斜め懸垂(インバーテッド・ロウ)の『バリエーション②』の平均回数(スポーツ選手)をご紹介して終わります。

男性(~102kg) 女性(~77kg)
高校レベル 10~15 3~5
大学レベル 15~20 5~10
国内レベル 20~25 10~15
世界レベル 25+ 15+

 

世界レベルを目指してLet’s try!

投稿者プロフィール

Yutaro Masuda
Yutaro Masuda理学療法士
理学療法士として幾多の臨床経験を経て2020年に『RE-ALL FITNESS』を設立。
もともとは体重100kgオーバーの大食漢。腕立ても腹筋も出来ない男がアメリカンフットボールに出会ったことをきっかけにトレーニングを始める。やめてからはパワーリフティングに転向し、トレーニングに明け暮れる2児の父親。