トレーニングと共に、障がいと生きる~脱リハビリ宣言~

【目標】

・左の片麻痺(左半身に麻痺症状がある)の影響で、起きること、立つこと、歩くことなどがスムーズに行えなくなってきたので、それらを改善したい。

・筋肉を増やしたい。

50歳代、男性のお客様。

数年前に脳血管疾患を発症。その後遺症として左半身に麻痺症状が残りました。

退院後は介護保険サービスなどを利用しながら運動機能の維持、向上に努めてきたそうですが、今回上記【目標】を達成すべく当ジムにご入会していただきました。

その介入結果は、以下の動画にまとめています。

是非、ご覧ください。

動画の詳細については以下をご覧ください。

目標1「歩行、立ち上がり動作の改善」

「立つのが大変」

「早く歩けるようになりたい」

以上を改善、向上するために下半身の強化と動作練習を行いました。

まずは立ち上がり動作を観察します。

どのように立ち上がっているでしょうか。

この立ち上がりは、片麻痺症状のある方によく見られる立ち上がり方です(Before/Afterは後述します)。

 

では、動作分析して得られた情報をもとに介入方針を決め、実際にトレーニングを開始します。

トレーニングは、立ち上がり訓練や段差昇降訓練、片膝立ちからの立ち上がり訓練などを行いました。

【結果】

当ジムまで徒歩約20分かかっていた道のりを約13分(-7分短縮)で来られるまで歩行速度が向上しました。

また、立ち上がり動作も初回の身体機能測定(30秒間立ち上がりテスト)で10回でしたが、約1ヶ月後の再測定では15回に向上しました。このテストは、30秒間で14回以上立ち上がりが行えない場合は転倒のリスクが高いと言われています。

上記の立ち上がり動作のビフォーアフターについて簡単にご説明します。

[Before]

・杖を身体の右側面に置いています。

・立つ時に、上体をあまり前方へ傾けていません。

・立つ時、立っている時、杖に身体を預けているため右側に傾いています。

[ After ]

・杖を身体の前面に置いています。

・立つ時に、上体を前方へ傾けています。

・立つ時、立っている時、身体の右への傾きが減っています。

目標その2「床からの立ち上がり動作の改善」

「床から立ち上がるのが大変」

「昔、ひとけのない道路で転倒した時に、つかまる所がなくて立てずに這って行った時がある」

以上を改善するためにまずは「床からの起き上がり」と「床からの立ち上がり」の動作を観察しました。

「床からの立ち上がり」に関しては動作開始から終わるまでに約22秒かかりました。

この分析結果をもとに動作練習と筋力トレーニングを始めました。

具体的な内容は、前述の動画をご覧ください。

【結果】

22秒かかった床からの立ち上がり動作が8秒(ー14秒)まで短縮し、起き上がり、立ち上がりまでの一連の動作をスムーズに行えるようになりました。

筋トレで運動機能は改善するのか?

今回の介入結果では全ての目標項目に対して改善がみられました。

介入で行ったことは

  1. 動作分析
  2. “1”から得られた情報をもとに介入方針を決める。
  3. 必要な動作練習、筋力トレーニングを行う。

以上です。つまり筋力トレーニングだけです。

「筋トレだけ?」と思うのは当然です。

なぜなら筋トレは皆様にとって身近な存在であり、きっと誰でも一度は独自に行なったことがある”誰でも出来ること”だと思うからです。しかし、筋力トレーニングは解剖学や生理学、運動学などの知識と、身体的特徴に対する知識、そして動作を観察する”目”をもって初めて安全にトレーニング効果を得られる専門的なテクニックです。

 

では「リハビリ」といって皆様はどのようなことを想像しますか?

 

リハビリテーションを直訳すると「再び適した状態になる」という意味です。

理学療法士として病院や施設などで働いてきた私の主観的な意見ではありますが、リハビリという言葉は「理学療法士がストレッチやマッサージなどの専門的なテクニックを駆使して、痛みや日常生活動作を改善させる」といった意味として捉えている方が多いと感じます。

それ故に、筋力トレーニングというものがリハビリにおける軽視や、偏見、誤解を生んでいるのではと私は思っています。

「筋トレで変わるの?」

「痛いのに筋トレしていいの?」

「若くないけど筋トレで筋肉つくの?」etc.

 

そもそも我々の身体はどういった原理で動くことが出来るのでしょうか。

なぜ若い時は何も問題がなかったのに、加齢にともなって動作が大変になったり、身体の節々に問題が出てくるのでしょうか。

 

身体を動かす動力源は「筋肉」です。

 

人と車はよく似ている。

筋肉を車(エンジン)と考えてください。

その車を動かすのには「運転手」が必要です。

その「運転手」にあたるのが「脳」です。

下図の4パターンをご覧ください。

このパターンからわかるように、いくら整備の行き届いた車でも、それを運転する側に問題があれば車は走りません。

その逆もしかり、運転手が運転が得意でも、整備不良の車では走りません。

どちらの場合でも、問題がある状態で車を走らせれば、次々に車にガタがきて、いずれは完全に動かなくなります。

 

筋肉は身体を動かす動力源の基盤であり、その基盤のうえに身体を動かす技術が成り立つわけです。

そして、その基盤と、そのうえに成り立つ技術の向上をすることができる手段の一つが筋力トレーニングなのです。

「筋力トレーニングは筋肉をつけるために行うもので、体を動かす技術は上がらないでしょ」と思うのは間違った考えです。

その謎を解くカギの一つが『特異性の原理』です。

【特異性の原理とは】

⇒あるトレーニングを行った時、そのトレーニングに対しての効果しか得られない。

例)

・ジョギング:心肺機能の向上〇/筋力の向上×

・スクワット:下半身の強化〇/上半身の強化×

 

つまり、ある種の能力を高めるにはそれに似た(合った)トレーニングをする必要があるということです。

Q.「高く跳べるようになりたい」ときは、スクワットとベンチプレス、どちらを行ったほうが跳躍力が伸びるでしょうか。

筋力トレーニングの知識がなくても、感覚的にスクワットの方が跳躍力を伸ばすとわかるはずです。

まとめ

お客様の目標に対して特異性の高いトレーニングを選び、動作を行う技術を向上させ、その基盤となる筋肉を鍛えることで今回の結果が得られたと考えます。

60分のトレーニングを週に1回

この限られた時間で、闇雲に介入しても効率よく効果を得ることはできません。

  1. 動作分析
  2. “1”から得られた情報をもとに介入方針を決める。
  3. 必要な動作練習、筋力トレーニングを行う。

一にも二にもこういった基礎的でシンプルなことがトレーニングにおいてとても大事になってきます。

今回のお客様とのトレーニングで得られた結果をご覧になり、そこから筋力トレーニングの重要性や、運動習慣の見直しなど、ご自身の健康について考えるキッカケに繋がれば幸いです。

 

「すべてがトレーニングであり、リハビリは存在しない。最良のトレーニングを簡単にしたり、左右差をつけたりするだけである」

チャーリー・ワイングロフ

 

私の好きな言葉です。リハビリテーション(再び適した状態になる)という言葉は存在します。

しかし前述したような、受動的な意味のリハビリは存在してはいけないと私は思っています。

なぜなら「再び適した状態になる」ための道筋を立てて、お手伝いをするのが理学療法士やトレーナーの役目であり、それを実行、継続するのはご本人様であるからこそ、リハビリというマインドをもっているうちは根本的な解決にならないからです。

投稿者プロフィール

Yutaro Masuda
Yutaro Masuda理学療法士
理学療法士として幾多の臨床経験を経て2020年に『RE-ALL FITNESS』を設立。
もともとは体重100kgオーバーの大食漢。腕立ても腹筋も出来ない男がアメリカンフットボールに出会ったことをきっかけにトレーニングを始める。やめてからはパワーリフティングに転向し、トレーニングに明け暮れる2児の父親。